汚された泉


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001 2024/07/03(水) 09:36:28 ID:xtK3k6pTsc
「いいえ、私は百姓です。家に帰ろうとしていたのです。どうか許してください」顔を真っ青にして、後ろにのけぞろうとする農民の背中に、「この野郎、図太い奴だ。言え、言わんか」K伍長の鞭が肉をさきちぎるようにビュンビュンとうなった。そのたびに農民は頭を両手でつつむようにして堪えていた。

軍刀や鞭、獰猛な幾十かの目玉に取りかこまれ、たまらない不安と堪えがたい苦しみの中から、「私は百姓です。どうか許してください」崩れる体を両手でやっと支えながら、農民は頭を地面に叩きつけるようにして、何回も何回も繰り返していた。その眼には大粒の涙をいっぱいたたえて・・・。

「ビシッ・・・ビシッ」冷酷な鞭は休むどころかさらにひどくはげしく農民の体をなぐった。小さなうめき声をあげ、歯をくいしばる農民の日やけした顔は、血と脂汗と泥でものすごい形相に変わり、石のようにこぶしは固く握りしめられていた。

そのさまが私にはたまらなく面白かった。ゲラゲラ笑う兵隊たちの中で、私は煙草をくゆらせていた。

草の葉ずれや驢馬(ろば)を追う鞭の音にも「八路軍だ」とうろたえまわる日本兵も、いったん身に寸鉄も帯びない平和な農民、女、子どもの前に立つと、こうしてたちまち牙をむき出して飛びかかったのだ。

会心の笑いをうかべたY中尉は、「この野郎、水でもくらえ」農民を力まかせに井戸の中に突き落とした。これが彼の初めからの計画であったのである。

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