通常、死者が悪く言われることは少なく、むしろ称賛される傾向さえある。
死者がポジティブに評価される理由として、人々が顕在的・潜在的に有している
死への恐怖が関わっていると推測する。
これは、後述する存在脅威管理理論に依拠して現象を解釈する試みであるが、
もっとシンプルな解釈を加えることも可能であろう。
すなわち、「死者は生者のふるまいや発言を見聞きすることができる」、
という素朴な感覚にもとづく説明である。
社会心理学には「被透視感(sense of transparency)」という概念がある。
これは、言語化していない自己の内面が他者に察知されている感覚をさす。
この概念を本稿の文脈で読み換えれば、自己の言動を死者、すなわち
肉体的には存在していないはずの他者から把握されている感覚、
と定義することができるだろう。
Allison et al.(2009)やHayes(2016)が先の研究を行った米国において、事実、
こうした「見られている」感覚と通底するあの世・霊魂観を抱く人々は少なくない。
米国で行われた調査では、死後の世界を信じていると回答した人は71%、
また死後生を信じていると回答した人も70%にのぼることが報告されている。
日本においても一定数の人々が同様の感覚を保持している。
たとえば49%の人が死後の世界や「あの世」はあると思う、と回答し、
また46%から49.2%の人が、人間は死んだ後も霊魂や魂が残ると思う、
と回答している。
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